転機となった和紙との出会い。
人との繋がりで自分の可能性が広がる田舎暮らし。
岡山県新見市生まれ新見市育ちの土屋俊介さん。
新見市の第一次産業である林業に携わった仕事をされており、自然に関わることが好きだそうです。
そんな土屋さんは、約10年前から地元神郷下神代に残る「神代和紙」の継承も意欲的に活動をされています。
神代和紙に出会ってからの暮らしの変化や挑戦について聞いてきました!
和紙との出会い
nami
地元で暮らし、地元の企業で働かれている土屋さんなのですが、なぜ「神代和紙」に携わるようになったのですか?
子供の頃からずっと遊んでいる友達がいて、そのおばあちゃんが紙漉き文化を守っているということで、見に行こうかな、遊びに行こうかなと思ったのが最初のきっかけです。
試しに作ってみるかと言われ、道具を触らせてもらったり、実際に紙を漉くのを教えてもらいました。伝統の紙漉きのサイズはなかなか漉くことができなかったですが、何度かやっているうちにハマってきて。
これが上手く漉けたら楽しいなって思っていた頃に、おばあちゃんが「そろそろ誰か後継者がおらんかな?と思っとるんよ」と僕たちの顔を見て言ってきたんです。その一言をきっかけに、真剣に携わるようになり教わり出して今年で約10年経ちました。
土屋さん
nami
友達のおばあちゃんが伝統文化を継承されていたのが縁で始められたんですね。
お仕事をされながら和紙の活動をされているのですが、暮らしの変化や紙漉きについて教えてください。
本業が週5日勤務あって、その合間に紙漉きをしたり、県南のイベント出店をしたりして、空いている時間を使って和紙の活動をしています。そういった意味では本業とプライベートのバランスは取れていると思います。
紙漉きをはじめて10年なのですが、紙漉きって終わりがないんです。紙漉きの技術だったり、原料だったり、均一の厚さを何枚も漉くえるようになるには一生かかると思う、師匠も紙漉きには終わりがないというように、これでいいというのがないくらい奥が深くて楽しく活動しています。
土屋さん
神代和紙について
歴史は古く、1200年ほど前の平安の頃から文化がある。
和紙の原料である、コウゾまたはミツマタで作られているが、神代和紙はその2種類の原料から作られているのが特徴。合わせることによって、丈夫ながらもきめ細かい和紙が生まれる。京都の東寺にずっと納められていた歴史ある和紙です。ここ神代は山と川に恵まれており、コウゾとミツマタの両方の栽培が盛んに行われていた。その2つの原料を用いて作られる神代和紙は、とても頑丈。番傘などにも適している。
神代和紙を通じて
nami
伝統を残すために「神代和紙保存会」を立ち上げられたとのことですが、どんな方がどんな活動をされているのですか?
神代和紙に出会った頃と同時期に、和紙に興味がある人・残したいという人などが集まって保存会を立ち上げ、現在は8人のメンバーがいます。
そのメンバーで、和紙の原料で使われるトロロアオイの栽培にも挑戦しています。
個人では自分の土地でコウゾを育てていて、今年で6年目になります。
コウゾとミツマタは、どちらかしか育たないという地域が多いのですが、神代はその両方が元気よく育つ、珍しい地域なんだと栽培して知ることができました。だから、和紙の文化が残っているのだということもわかってきました。
ゆくゆくは、原料の全てが新見で採れたもので和紙が作れたらと思っています。
土屋さん
nami
原料も自身で作られているのは、神代和紙を受け繋いでいくためには重要な要素なのかもしれませんね。
他にどんな活動をされているのですか?
毎年夏に開催している「かみさま夢風鈴」では、地元の方や新見公立大学の方など、多い時は30人ほどが携わってくれるようになりました。新見大学の学生さんが協力してくれたり、岡山大学と一緒にイベントするなど、人の輪が広がっているなと感じています。
「かみさま夢風鈴」は、2024年で8回目の開催になるので、今年も皆さんに楽しんでもらえるように準備を進めています。
土屋さん
nami
たくさんの方が携わられて、素敵なイベントが成り立っているのですね。私も昨年お邪魔させてもらいましたが、色とりどりの和紙と風鈴の涼やかな風景は「見ても聞いても楽しい」空間で癒されました。
コーヒーフィルターから広がる新たな活動
nami
和紙の活動をする中で、個人事業主としてコーヒーフィルターの作成・販売をされているのですが、なぜコーヒーフィルターに着目したのですか?
和紙は1000年は保存できる品質があり、昔は想いや記録を残すのに重宝されていたのですが、現代の方には馴染みが薄く、良い和紙を作っても使い方がわからないという人が多いなというのがあり、灯籠などいろいろな活用方法を模索していました。
そんな時に、友人が遊びに来てコーヒーをいれてあげるよとコーヒー道具を一式持ってきていたのに、フィルターだけを忘れて。おもむろに近くにあった和紙を使ってコーヒーを淹れ出したんです。
はじめは手間ひまかけて作った和紙をいとも簡単に使っているのを見た時は「えっ!?」となったんですが…
和紙で入れたコーヒーを飲んだ時に、ビックリするくらい美味しくて!
調べてみると大昔は職人さんが作った和紙で入れていた文化があったそうです。試行錯誤をして、だれもが美味しいコーヒーを淹れられるようにと今のフィルターが出来上がりました。
和紙で入れることによりコーヒーオイルが抽出され、雑味の原因になるものは和紙に残るため、すっきりとちょうど美味しいコーヒーが淹れられます。
イベントなどで出展した時には、和紙に触れてもらったり、飲み比べしてもらったり、直接お客さんの声が聞けるのはとても嬉しいし、人との交流ができるのは楽しいです。
土屋さん
nami
思わぬきっかけで出来上がったコーヒーフィルターだったんですね。
このコーヒーフィルターを通じて何か変化はありましたか?
本業の片手間にコーヒーフィルターを作っているのですが、商工会を通じて、いろんな方に知ってもらえることができています。そこで知り合った方達に、和紙の丈夫さを利用して布のような活用ができないのか、壁紙として空間を演出できるのではなど、たくさんのアドバイスをいただき、商品化に向けて今動いているところです。
和紙をしていなかったら知り合うこともなかったであろう人たちとの繋がりもたくさん増えました。
将来は、神代和紙を利用した民宿もしてみたいなと思っています。もちろん、伝統を伝えていく担い手となって後世へ繋いでいきたいですね。
土屋さん
神代和紙との出会いをきっかけに、新たな活動を始めた土屋さん。
この地域に住んでいて、この地域に残っているもので、その土地にいる人とコミュニケーションが取れるのはとてもいいなとも語ってくださいました。
伝統を残しつつも時代にあった変化は、受け継いでいくためには大事なことだなと感じさせられました。
これからの土屋さんの活躍にも注目していきたいですね。