子どもたちが安心して楽しく過ごせる環境を。城井田教育長の想い

共に学び育ち1人ひとりが輝く学校教育を。
教育長の考える「効率ではなく生活を求める」学びの場とは?!

自分が住むまちの学校のこと、これから住んでみたいと考えているまちの教育環境のこと、どのくらい知っていますか?

私達の住む岡山県新見市には、小学校17校、中学校5校、高校2校、大学があり、それぞれより良い教育の在り方を考え、実践されています。

特に小学校と中学校では、教育委員会が主体となり、「ICT活用」「英語教育」「インクルーシブ教育」「地域との連携」を4本柱に、教育計画をすすめています。

学校の管理運営の在り方が問い直され、様々な視点で抜本的な見直しが必要と叫ばれている今、ニミログライターのnamiとyukimiが、城井田(きいだ)教育長のお話を伺ってきました!

城井田二郎教育長のご紹介

yukimi

今日はお時間をとってくださりありがとうございます!
まず初めに、読者の皆さんに教育長の自己紹介をしていただけますでしょうか。

私は隣の高梁市出身で、中学からは総社市で暮らし、今から40年以上前、大学卒業後に新見市へ中学校教諭として赴任。中学では社会科の教鞭を取りながら、部活の顧問を。その後、小学校2校、中学1校で校長を務め、3年前から新見市の教育長になりました。

城井田教育長

nami

わぁ、新見市の教育について40年以上も携わってきてらっしゃるんですね。

そうだね、現役の教員時代から今日まで色々なことを学ばせていただいています。
特にこの40年は統廃合の歴史でもあり、人口の移り変わりとともに学校の形態がどんどん変わっていく変換期に立ち会いました。
だからこそ、これからの時代にあった教育を常に考えています。

城井田教育長

yukimi

確かに、以前は50校以上あった小中学校が今は半分以下の22校になっていると伺ったことがあります。
その教育長の考える”これからの時代にあった教育”とは何か是非教えていただきたいです!
そうだね、新見市として今掲げている教育方針の説明にはいる前に、今の自分の理想とする1つのまちづくりの事例を紹介させてもらえたらと思います。
というのも「学校の形態が変わる」ことは「生活圏が変わる」ことであり、それは「まちづくり」に直結すると考えているからなんだけれど、、、

城井田教育長

yukimi

なるほど〜。
確かに、学校をベースに地域の人々は集まり、いわゆる同級生を中心にコミュニティは形成されていきますよね。
私はまだ子どもがいないので体感こそできてはいませんが、同じ世代の子どもがいることで繋がり、地域活動にも出ていくようになる。そうやって地域が機能していくというのは、移住者さんの話などを聞きながら感じるところがあります。
そう、そのとおり。
もっというと、そこに「子どもを地域の人が育てる」っていう観点が重要だと思うようになっていてね。
特に、皆さんのように「移住者」がキーワードになってくる話なんだけど。

城井田教育長

nami

へー、どのような取り組みだったのですか?
それは、カナダで出会った取り組み。
新見市は、カナダのブリティッシュコロンビア州のシドニータウンが姉妹都市の1つで、昨年の10月に7年ぶりに中高生10名を連れて行ったんです。
このシドニータウンという町は、非常に面白く、リタイアした人たちが集まった町。つまり人々が移り住んできて出来ている町なんだけれど、
その移住者たちがそのスプラッシュ(土着の人たち)の文化や風土を紹介する施設を運営していました。

城井田教育長

yukimi

おぉ、移民の国、カナダならではの話ですね! その土地の紹介をする施設を市民が運営しているんですか?
そう、建物をつくったのは市ですが、運営は市民、しかもボランティアで。
そのボランティアで働いている人たちの紹介が壁一面にされていて、それがステイタスになっていました。
もちろんリタイアメント世代でもうお金に困っていないからできる仕組みではあるのだけど、「その地域の元々の文化」を大事にしているというモデルがあったのです。

そこに「在るものを活かす」という取り組みを市民が一緒になって行い、それが次世代への学びの場にもなっており、地域、町が循環している。
あとで、お話する「ふるさとキャリア教育」を推進していきたいと強く思えるのも、このあたりがポイントです。

城井田教育長

yukimi

なるほど。
この地域だからこそできる教育を市民と一緒にということですね。
そう!まさしく。
ここ新見市でも、この地域と直結していく教育でありたいと思っています。

城井田教育長

新見のインフラを活用した「ICT教育」

yukimi

と、導入でだいぶ盛り上がってしまってしまったのですが、実際に教育現場で行われていることを教えていただけますでしょうか。
そうだね。
先程の「在るものを活かす」の1つの形でもあるのだけれど、新見市は「ラストワンマイル」と岡山県の中でも早くに光インターネットを市内全域に整備しているので、その環境を活かし「ICT教育」に力を入れています。

城井田教育長

nami

ICT教育と言われてもあまりピンと来ないのですが、どういった取り組みを実際しているのですか?
ICTとは通信技術を活用したコミュニケーションのこと。
私たちは、全国に先駆け、市内の全中学校の生徒にタブレットを貸し出し、電子黒板を活用して授業を行っています。
また、小中学生全員にプログラミング教育をしています。

城井田教育長

nami

生徒へのタブレット貸し出し、そして小学生からプログラミングの授業があるだなんて、自分が子どもの頃と比べるとちょっと想像つかないです。そうそう、 ソフトバンクと連携し、学校には 人型ロボットPepper も導入されていると聞いたことがあるのですが、本当ですか?
はい、平成29年度に全校へ導入しました。全国的に見ても恵まれたICT教育の環境を整備できていると自負しています。
これからの社会にスキルとして重要になってくる「プログラミング」ですが、その授業ではグループワークも取り入れたり、コンテストに応募したり応用的な取り組みをおこなっています。こういった形でコミュニケーション能力があがるような授業設計を行い、プログラミング的思考や解決までのプロセスを学べる機会を創出していきたいと思っています。

城井田教育長

新見第一中学校での授業の様子

外国の先生が身近にいる「英語教育」の環境整備

yukimi

田舎であっても、最新教育が受けれるっていうのはいいですね!  むしろ、生徒数があまり多くないからこそ、恵まれているっていうようなシチュエーションもあったりして、、?
確かにベッドタウンで児童が多い学校ではできないような取り組みができていると思います。
先程のICT教育もそうですが、新見市では急速な国際化に対応できる人材を育てていこうと「英語特区」の認定を受け、教育プログラムを考えています。先生たちの指導力もポイントになるので、小中9年間を通した英語指導の在り方について研修を進めていること。そして、ALT(外国語指導助手)を幼稚園、認定こども園、小学校、中学校に派遣し、幼少期から英語に慣れ親しむ環境をつくっていることが大きな特徴です。

城井田教育長

*英語特区:文部科学大臣の認定を受け、全国統一の学習指導要領等だけではなく「国際交流を推進する」地域の特色を生かした特別な教育課程を編成

yukimi

実際に、外国の先生が英語の授業をしてくれるんですね!それは魅力的、、!
そう、今新見市には12名のALTがいて、各校をまわりながら授業のサポートをしています。授業と言っても、会話やゲームを中心にした実践スタイル。みんな日本が大好きな若くてやる気あふれる先生たちで、子どもたちもALTの先生たちの授業を楽しみにしているという話をよく耳にします。

城井田教育長

新砥小学校での授業の1コマ

誰もが学校へ通いたいと思えるような教育の在り方「インクルーシブ教育」

nami

わたしには2歳の息子がいるのですが、我が子はどのような学校に通えるのか、また、教育長の「目指す学校」について知りたいです!
私はね「誰もが」通える学校であることが、健全だと考えています。元気で明るい子どもも、対人ストレスを感じやすかったり、少し障がいのある子どもも、全員が学べる場であること。つまり、特別な支援を必要とする子どもも健やかに通える学校であれば、そうじゃない子どももその学校が心地の良い場所だと感じると思うからね。だからこそ「インクルーシブ教育」の推進を掲げて、取り組みを行なっています。

城井田教育長

nami

「インクルーシブ」。。。初めて聞きました。どのような意味なのでしょうか?
まぁ、簡単に言ってしまうと「障がいのある子どもと障がいのない子どもが共に教育を受けること」です。学習上の困難がある子ども1人ひとりの教育的ニーズに応じて、個別の教科指導をしながらも通常授業に参加している実感や達成感を持つことができるように、特別支援教育推進センターや小学校内への特別支援教室の整備をすすめています。これにより、全ての子どもが楽しく学び、それぞれが輝いていくと考えています。

城井田教育長

nami

なるほど、全ての子どもに平等に学習活動を保障するというのが、「インクルーシブ」の理念なんですね!
そうなってくると気になるのが、私の住む地区は人口が少ないので、クラスが複式学級*であることです。実際、教育長は複式学級についてどう思われますか?

*複式学級:二つの学年以上の生徒を一つに編成した学級(クラス)のこと(例:1・2年生で1学級、3・4年生で1学級、、、等)

最初にも少しお話したように、近年の学校現場は、生徒数の確保の観点もあり学校の統廃合をしてきました。
しかし、生徒数が多くクラス編制が多いことだけがプラスだとは考えていません。
地域性が保たれるという点だけではなく、実際に、子どもたちの「学び」を考えたときにも、複式学級にも良いとことがたくさんあります。

城井田教育長

yukimi

複式学級の良いところとは具体的にどんなところなのでしょうか?
小規模だからこそ、異年齢でのコミュニケーション機会が増えること。そして、「教える側」「教えられる側」の関係性ができ、教え合う環境ができること。具体的には、1年生の時に教えてもらうばっかりだった子どもが、2年生になり教える立場に。その関係性の中で、”小さな大人”を経験する。そして、3年生になったら、また教えられる側に、、と行った形で、色々な立場を小さいながらに経験することになる。もちろん学年にとらわれずお互いが学びあえる関係性を構築するのがベストだけれども、、、。 いずれにせよ、毎年立場が変わるということは心の成長につながり、ストレスに強い環境となるので、子どもにとってプラスになると考えています。

城井田教育長

千屋小学校 3・4年生の授業の様子

yukimi

確かに、センターに遊びに来る子どもたちの様子を見ていても、上の子がちゃんと下の子のことをみるというシーンが自然にあって、いい感じだな〜って思います。
そう、昔は当たり前にあった「面倒を見合う関係」が複式学級では体現しやすい。これは小規模な学校だからこそできる異年齢の中での学びです。

城井田教育長

nami

そうなんですね。生徒数が少ないのが少し不安だったけれど、こうやって聞いたら、田舎の教育現場だからこそできる「子どもの成長の場づくり」があるんだな〜と感じました。
親世代の皆さんに、そう言ってもらえると、こちらも心強いなぁ。
お子さんは2才とのことでしたよね。新見市は小中の9年間だけではなく、「就学前教育」の教育プランをつくっているのも特徴の1つです。具体的には、臨床心理士や就学前支援コーディネーターなどが子育てひろば等をまわり、未就学児童を抱える親御さんの相談を受けれる体制づくりをしているので、どんなことでもいいから気になることがあったら話をするなど、ぜひ活用してほしいです。また、この体制づくりは、健康保育学科のある新見公立大学とも連携し、これからもっと充実した内容にしていこうと考えています。

城井田教育長

次世代がつくる新見を見据えた「地域との連携」

それから、インクルーシブ教育とも繋がってくる話なんだけれど、子どもたちが学校を通じてこの地域に愛着をもつ、つまり、郷土愛に繋がっていくような教育を行っていきたいと思っています。

城井田教育長

yukimi

なるほど、地域に愛着をもつってどうやったらできるのでしょう?
最初のステップ「地域に開かれた」学校づくりをしていくこと。実は子どもたちが自分の暮らしている地域のことを知ったり学んだりする場って、そんなにないんです。だから、子どもが地域の人と接点を持つことによって、生まれ育った町のことを知り、興味関心を持てるような機運づくりをしていきたいと思っています。そのために、全ての学校に「学校運営協議会(CS)」を置いて機能させていき、誰かが決めるのではなく”地域の人と共に決めていく教育”を実践していきたいとい考えています。このCSによって、学校のカリキュラムなどどんどんオープンにしていき、新見市内での情報交換も活発にし、互いに議論したり、それぞれの良いところを取り入れながら学校運営がされて行けるように変えていきたいと動き出したところです。

城井田教育長

nami

なるほど〜。学校を超えた連携を見据えているのですね。 おっしゃっていた「実は生まれ育った町のことを全然知らない」というのは確かにあるかもしれませんね。
そう、だからこそ「ふるさとキャリア教育」をはじめました。新見みらいづくり会議さんにご協力いただき、教員以外の大人からこのまちのことを学ぶ機会を得れる『出前授業』。そして、中学校では、新見市の地場産業や企業等と連携し、進路選択に活かすふるさと職場体験を実施しています。
ピオーネ、千屋牛といった特産物や主要産業の石灰のことなど、新見で生活しても知らないことが多いので、少しでも子どもたちがこのまちのことを知り、「何にもない田舎」ではなく、「豊かで素晴らしいまち」と誇りを持ち、地元で働くんだと思えるような学びの場を地域の皆さんと一緒に作っていき、そのことがこれからの新見市の発展に繋がっていくと信じています。

城井田教育長

新見みらいづくり会議さんによる「出前授業」の様子

理想は「効率ではなく生活を求める場」

yukimi

いや〜、正直、想像していた以上の動きが教育現場で行われていることが伝ってきました。すごいですね!
最後に、教育長の考える「これからの時代の学校、将来の学校の姿」についてお聞かせいただけますか?
コンパクトシティという考え方があるよね。
新見市の場合、コンパクトシティであり、なおかつネットワークがないといけないんじゃないかと思っています。
そして、学校のあるべき姿もそれなのではないかと。

太陽系に例えるならば、新見市の中心地の市街地が太陽。つまりシティの部分。
その周りに、惑星が回っている。ここのポイントは、この繋がりが少しでもバランスが悪くなると、太陽系は成立しなくなってしまうこと。つまり、絶妙なネットワークで、つながりながら、ぐるぐる回転していくということだと。

城井田教育長

nami

確かに学校同士が連携してくれていたら、私の子どもが通うような小規模な学校でも安心です。それの要が先ほどおっしゃっていたCSにもなってくるんですね。なんだかカリキュラムなどの情報だけではなく、人も行き来しても良いような、、、
実は、新見第一中学校には「ソリューションルーム」というのを用意していてね。これは県の制度を使って整備したのだけれど、「学校に行きにくい子たちのための場所」です。子どもは自分の所属のクラスもあって担任もいる、そしてソリューションルームにも担任がいる。つまりダブル担任で、そういった子たちを育てていこうという動きでね。って説明をすると、その子たちだけ特別扱いするのか!だなんて言われそうな取り組みではあるのだけれど、私は ”学校生活はその時しかない” と思っていて、特に新見市のように選択肢がない子どもたちには、本当に必要だと思っているんです。だって、都心部の子どもは行きたい学校があったら電車に乗って通うなり、なんなり選べるでしょ。けれどもこのまちの子はそれができない。だからこそ「インクルーシブ」。効率だけを重視するスタイルではなく、誰もが不安感がない場所を作らなきゃいけない。学校が脈々とやってきた「楽しくて安心できる場所」を全ての子に提供できるように、それぞれの子どもにあった教育をしていきたい。そして通う子どもたちが1人ひとりが輝き生活できるような学校が、これからの時代の在り方だと考えています。

城井田教育長

yukimi

なるほど。1人ひとりを尊重し、それぞれの居場所となり、生活ができるような場を目指されているということですね
そう。だからこそ、地域に根ざした教育をICTや英語など新しいことを取り入れながらやっていく必要があると思っています。これからも保護者の皆さん、地域の皆さんの理解と協力を得ながら、一緒になって多様な子どもたちを受けとめ、健全な心の子どもを育ててる学校づくりをして行きたいです。

城井田教育長

教育長室でこれからの教育について熱く語る教育長

ライターより1言

今回、初めてお会いさせていただいたのですが、印象的だったのは、身振り手振りを使いながら表情豊かに伝えてくださる教育長の姿。
実は、話が盛り上がり、2時間以上教育長室にお邪魔させていただき、途中、インタビューというよりは、意見交換会のようなシーンもあったのですが、私たちのような若輩者の意見も否定することはなく、嫌な顔せずにどんな質問へも応じてくださりました。

先生なのに垣根なく話しかけられ、思慮深く色々な事象をみて、接してくださる。

いや〜 私も学生時代に城井田先生に教わっていたら、どんな影響を受けていたのでしょうか、、、
今でも先生のところへ集まる同窓生たちがたくさんいるというのもわかる気がします!

熱い想いを持って、新見市の明日を考えている教育長。

これからの学校教育に期待が持てる時間となりました。
取材へのご協力、本当にありがとうございました。

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