山の中のハウスの中、朝日を浴びて、葉っぱの緑の中に光り輝く真っ赤なイチゴ。
このイチゴが収穫されるのは、太陽の日差しがもっとも強い夏の時期。スーパーから姿を消してしまうイチゴが夏でも食べられるようにと新たな挑戦が走り出しました。
イチゴの旬は、3月〜5月。スーパーなどでは12月初旬から店頭に並び始め、5月いっぱいまでで店頭から消えていきます。
夏生まれの子どもに誕生日ケーキを手作りしてもイチゴが用意できないと嘆いているママさんもいるとか。でも、ケーキ屋さんへ行くとなぜかイチゴのショートケーキが…それは、夏イチゴを栽培している農家さんがいるからなんです。しかし、収穫量が少ないためそのほとんどがケーキ屋さんにいき、スーパーまで流通しないそうです。
しかし、近い将来、私たちの家庭でイチゴが食べられる日がくるかもしれません!
そんな貴重な「夏イチゴ」栽培に挑戦している多賀邦香さんにインタビューしてきました。
レタス農家からトマト農家へ。
多賀邦香さん(以下邦香さん)は、岡山市南区出身でご実家はレタス農家さん。
大学で知り合った旦那さまと結婚を機に新見市へ。実は、その嫁ぎ先は新見市でも有数のトマト農家さんでした。
nami:農家から農家へ嫁がれたわけですが、抵抗などはなかったですか?
邦香さん:品種は違うけど農業の勝手がわかるので違和感なく嫁げました。実家が農家だったおかげもありますね。実家が海べりの住まいだったので、どんな田舎暮らしが待っているのかとワクワクしていました。でも山が近い暮らしは、人恋しい時も。とても静かな環境で、カッコウのさえずりや遠くで聞こえる電車の音に、初めての子育て中はホームシックになることもあったけど、今では山の暮らしが好きになりました。
また、体感温度が変わったとも。
邦香さん:県南は、夏服姿が多く冬は外でダウンジャケットを少し羽織る程度だったのが、県北だと夏服の出番は短く、嫁いで数年は長袖でいる事が多かったかな。今では、雪が降る県北の暮らしにもすっかり慣れ、夏場の実家が暑すぎると感じています。こちらの気候が過ごしやすくていいですよ。
確かに県南と県北では生活スタイルが変わりますね。服装だけでなく、車のタイヤの履き替えや運転・雪かきなど、邦香さんのように雪に馴染みがない方にとっては、慣れるのに大変だったのかもしれませんね。
田舎での暮らしや子育てについてもこう語っています。
邦香さん:4世代8人家族でいつも賑やかな我が家。家族で農業をしているので、必ず誰かが家にいる安心感がありました。トマトの圃場が子どもたちの遊び場にもなり、大人の働く姿を見て自然にお手伝いをするように。自然に相手を気遣う事ができるようにもなってきました。家族で協力することにより、大変さ・楽しさを共有できる幸せ感がある。それに、実家の友達は、この自然が羨ましいといってくれています。
自然の中で子ども達がのびのびと育っていて、家族の存在が近い、一つの家族の幸せのあり方ですね。
そして夏イチゴ農家へ…
”新たな事で興味を持ってもらいたい、女性や若者による就農や定住に繋げて地域活性化を” と考えていた邦香さん。
その頃、新見農業普及センターの先生から、桃のような香りと淡い桃白色が魅力のいちご「桃薫」栽培のススメがあり栽培を始めたそうです。
nami:「桃薫」の栽培を始めてまもなく、なぜ夏イチゴに切り替えたのですか?
邦香さん:実はイチゴ栽培を始める前から、トマト栽培の立地だと夏イチゴが作れるのではと頭の片隅にあったんです。
「桃薫」の旬は2〜4月、これでは夏に食べられるイチゴではないと先生に相談しました。そしたら、まだ名前のない岡山品種の夏イチゴが存在する事を聞き、これなら新見でできると確信したんです。
「夏イチゴ」への挑戦が始まりました。
邦香さんの自宅は標高530mほど。愛媛(標高約1000m)や広島(標高800m)など、夏イチゴの圃場へ研修に行き、イチゴ栽培の面白さと同時に、標高の違いで栽培ができるのかと不安にかられたそう。しかし、栽培を始めたところ岡山品種は、邦香さんのご自宅のある530mの標高でも栽培できるとわかり、本格的な挑戦が始まりました。
まだまだ山積み。新たな挑戦
現在4年目を迎え、ハウスの半分ほどの面積で栽培している「夏イチゴ」。
栽培方法や販路など、今ある課題についても聞いてみました。
nami:夏イチゴ栽培を始めてみて、作業面や需要はどうですか?それと今後の課題は?
邦香さん:夏イチゴはハウスの温度管理が重要。加温用の薪ストーブを入れ、ハウス内の温度管理をするのが大変です。力仕事は、トマト栽培に比べると少ないです。でも、ランナー(ツル)や実のつかない花芽の摘み取り、地面の掃き掃除、イチゴの収穫など、作業量は変わらないかな。今は1人でしているので、今後栽培を拡大していくのであれば、人員を増やすことを考えなくてはならないですね。
それに定期的販路がまだ少なく、今は市内のお菓子屋「さつきや」さんのみに出荷しています。これから、市内のお店に使ってもらえるよう、営業もしていかないといけませんね。需要と供給の課題も、まだまだこれからですね。
昨年は、いっぺんに実ができてしまい8月のお盆までには収穫が終わってしまったそうです。その経験を生かし、今年は8月のお盆までイチゴの収穫ができるようにと挑戦中です。それは、実がつく苗を列ごとにずらす栽培方法で、イチゴが手に入りにくい時期でも長期的に供給できるようにと調整しているそうです。栽培も営業も同時進行で行なっており、課題がまだまだ山積みのようです。
夏イチゴ=新見を目指して
これからの夏イチゴの可能性についても聞いてみました。
nami:どんな想いで挑戦を続けていきたいですか?
邦香さん:夏にイチゴが食べられるようになれば、近くにある宿泊施設に泊まったお客さんが朝の涼しい時間にイチゴ狩りをして楽しむ、観光の一つとなっても面白いかもしれませんね。それに、夏でもフレッシュな国産のイチゴが食べられる新見市として、地域活性に繋がるかもしれないなと思っています。
でも、現時点では知名度が低く、自分以外に生産者がいないのでこの挑戦を成功させて、生産者=仲間を増やしていきたいです。また、新見市=夏イチゴ(食べられる・採れる)となるよう、特産品の一つに入っていけたらいいなぁ。新見のA級グルメへ仲間入りするのが夢です(笑)
今後、生産を拡大していけたら、新見市内のいろんなお店で食べれて、食材として使ってもらいたいですね。
新見には夏に食べられるイチゴがあるんだよ!夏にイチゴ狩りが楽しめるんだよ!となればいいですね。
新たな観光資源としても可能性のある「夏イチゴ」。
現在、新見市のA級グルメには、千屋牛・キャビア・ピオーネ・ワイン・にいみ源流米の5種類があります。
フルーツの特産品でいうと桃も有名です。夏イチゴもこの一員となれば新見はフルーツのまちに!
知名度が上がれば、生産する仲間も増えて、ますます楽しみとなってくるかもしれませんね。
インタビューを終えて
邦香さんの想いから始まった夏イチゴ栽培への挑戦。
撮影をしながらいただいた、採れたてイチゴは酸味がやや強く、香りも豊かでとてもジューシー!暑いハウスの中では、贅沢な水分補給に。喉が潤うとともに幸福感に包まれました。
瑞々しい真っ赤な夏イチゴは、夏生まれの誕生日ケーキにも彩りを添えてくれることでしょう。家庭で食べられるようになると想うと待ち遠しいです。ぜひ、岡山・新見産の夏イチゴが広まっていってほしいですね。
そして邦香さんの想う、観光として、仕事として、産地として、多方面での活躍も期待できそうです。
農業は天候に左右され育てる大変さはやってみないとわかりません。でも、自分が手をかけて育っていく野菜やお米などが収穫できた喜びも、やってみた人じゃないとこの楽しさ・嬉しさはわかりません。まるで子育てをしているようだと感じる方もいますよね。
私の住む町には、色々な想いを持って、お嫁に来る人、引っ越して来る人がいます。
そんな人たちが、邦香さんのように、楽しさ・喜び・大変さを共有しながら新しい農業への挑戦できる環境であってほしいと思います。
夏イチゴ是非成功させてください。約20年?前にも新見市内でチャレンジして、ケーキ屋さんからも喜ばれて、ほぼ成功したと思っていたら突然亡くなってしまわれました。過労死でした。残念でした。大井野に路地で四季なりのイチゴを植えてもらったことも有ります。玉野の小学生が夏休みの交流で来た時喜んでくれると思って、うまくいったかどうかはわかりません。